宿題が手につかない・・・そんな子へ「尾木ママ」から送る言葉とは

「週明けまでにリポートを仕上げてください」「この書類の締め切りは○月○日です」。
こうした「宿題」は、子どもだけでなく大人の日常にもつきものです。
早く片付けた方が良いと分かっていても、なかなか手を付けられないこともあります。
一方で、宿題を出す立場の人にも、きっと大きな負担や心労があることでしょう。
でも、自分で決めた予定ならやる気が湧くものだそうですよ。
宿題にまつわる悩みの根本には何があるのか、教育評論家の尾木直樹さん(77歳)に伺いました。
(※2024年7月17日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

締め切り間際に宿題を仕上げる力とその価値

宿題を後回しにしてしまい、締め切り直前になって苦労することは、決して珍しいことではありません。
いわゆる「夏休み最終日の子ども」のような状況ですね。それは確かに大変で、計画的に進めている人に比べると負担も大きいでしょう。しかし、ある意味ではこれも一つの能力だと考えられます。ぎりぎりになっても何とか間に合わせる力、それは「取りかかりさえすれば成し遂げることができる能力」とも言えるため、あまり自分を責めすぎる必要はありません。
また、宿題を始めるまでの間に他の魅力的なことに心を向けている場合もあります。たとえ何もせずにぼーっと過ごしている時間があったとしても、その時間もまた大切なものなのです。

心を軽くする「リフレーミング」と多様な視点の大切さ

ボーッと過ごす時間は、心を軽くし、リフレッシュする効果があります。これは「リフレーミング」という心理学の手法に通じるものです。例えば、物事をなかなか決断できないAさんがいるとします。Aさん自身はそれを短所だと感じているかもしれませんが、「慎重さ」という素晴らしい個性と捉えることもできます。視点を変えることで、欠点だと思っていた部分が、その人の魅力として映るようになるのです。この考え方は、あらゆる事柄に応用できます。
さらに、物事を○か×かの二者択一で考える必要もありません。例えば、「男性的」「女性的」とされる特徴をそれぞれリスト化し、クラスの子どもたちに当てはまるものにチェックを入れてもらうと、誰もが両方に該当する項目を持つことが分かります。このように、人は多様な側面を持っており、それを理解することで、物事を二択ではなく、グラデーションとして捉えることができるようになるのです。

宿題との向き合い方と自己肯定感の育て方

尾木さんはご自身、宿題にどのように取り組んできたのでしょうか。
学校の宿題というものは、簡単にやる気が湧くものではありません。なぜなら、それは自分で決めた課題ではなく、先生や親に「やらされている」と感じることが多いからです。しかし、尾木さんのお母様はその点で非常に巧みでした。一度も「宿題をしなさい」と言われたことはなく、代わりに「今日はどんな予定?」と学校から帰ると聞かれたそうです。
尾木さんが「まず宿題を終わらせてから遊びに行こうと思う」と答えると、「えらいね、自分で予定を決められて」と褒められました。このようにして、自然と自己肯定感が育まれたと振り返ります。宿題をやる気にさせるのは「やる気スイッチ」ではなく、むしろ「やる気エンジン」に近いと尾木さんは感じています。ポジティブな気持ちで得意なところから始め、エンジンがかかれば苦手な教科にも取り組める。そして母親が再び褒めてくれる。このように、巧みに自己肯定感を高められていたように思うと語ります。
また、最近では公立小学校でも「宿題なし」「チャイムなし」といった取り組みが行われることが増え、授業や校外活動の内容を子どもたち自身が主体的に決めている学校もあります。自分たちで決めたことだからこそ、努力しようという意欲が湧くのだと述べています。

宿題を出す立場で求められる聞き方と余裕

年齢を重ねると、宿題を出す立場になることもあります。その際、宿題がうまく進んでいない人に対して「大丈夫ですか?」と尋ねるのは避けるべきだと言えます。この質問は条件反射的に「大丈夫です」と返され、本質的な解決に繋がらないことが多いからです。物事が進まない背景には必ず理由があり、その事情や思いをじっくり聞いてあげることが大切です。
私の母も、私が困っている時には「どうしたの?」と優しく尋ねてくれました。この経験を踏まえ、私が教員になった際には、校内でたばこを吸っている生徒に対しても「コラ!」ではなく「どうしたの?」と声をかけるようにしました。その結果、「どうしたの先生」と生徒たちから呼ばれるようになりました。
ただし、相手の顔が見えない電話やメールで「どうしたの?」と伝える場合、それが威圧的に受け取られることもあり、難しさを感じることもあります。日々、余裕を持って周囲と接したいと考えていますが、なかなかそれを実践するのは簡単ではありません。

若手教員の離職率増加と職場環境改善の必要性

先日、東京都が採用3年目までの教員を対象に実施したアンケート結果が報じられていました。この調査によると、先輩や上司の言動に対して「つらい思いをした経験がある」と答えた人は50.1%にのぼります。具体例としては、管理職の高圧的な態度や、「いつでも相談して」と言われながら実際には「今忙しい」と突き放されたといったケースが挙げられています。
若い教員の離職率が過去10年間で最も高くなった現状を受けて行われたこのアンケートは、先輩教員自身も厳しい状況に追い詰められている実態を明らかにしています。本来であれば「大変だったね」と声をかけるだけで7割ほど気持ちが軽くなることもありますが、「いつでも相談して」を実現するには話を聞く側にも余裕が必要です。
長時間労働の問題を含め、教員の働き方改革が今まさに解決すべき課題であることが改めて浮き彫りになりました。

尾木さんが抱える宿題と楽観的アプローチ

尾木さんが現在抱えている宿題について伺いました。臨床教育研究所「虹」の所長として、スタッフの生活を支える責任があるため、仕事の進め方には計画性が求められます。例えば、原稿執筆の仕事では締め切りの1週間前に仕上げ、スタッフにチェックしてもらうよう心がけているとのことです。早めに渡すことで、感想や指摘を受け、次回につながる良い仕事に仕上げられるからです。
また、長期的な宿題も多く、その一つが包括的な性教育を日本に根付かせることだそうです。性加害や性被害を防ぐだけでなく、人権教育として、また自己肯定感を育む教育としても、性教育は重要だと強調しています。
こうした大きな宿題を達成するには、120歳まで生きる必要があるかもしれないと笑いつつも、「ま、いっか」が口癖だという尾木さん。楽観的でポジティブな思考を大切にしながら、目の前の一つひとつに取り組んでいく姿勢が印象的です。