教員が抱く「ひょっとすると」という直感を見える形にすることで、児童虐待や自殺を未然に防ぐ可能性があります。
現在、学校ではAI(人工知能)の導入が進められており、虐待の兆候や、子ども自身が気付いていないSOSのサインをスコア化する取り組みが行われています。
このデータをもとに、児童相談所や子ども食堂など学校外の支援機関と連携する活動が広がりつつあります。
(※2025年4月14日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
AIが示す「支援のサイン」に気づくときって?
「欠席が1点、服装も1点……合計で16点となっています」
「AIの判定によると、この児童には何らかの支援が求められるようです。ご確認いただけますか?」
2025年2月、沖縄県糸満市にあるある小学校では、担任教諭をはじめ教務主任や養護教諭など、約10名の教職員が大型モニターの前に集まり、子どもに関するデータを真剣に見つめていました。
AIと教職員が連携する「見守り会議」
検討の場で情報を「共有」へ・・・
画面に映し出されていたのは、AIスクリーニングシステム「YOSS(ヨース)」です。
この仕組みでは、不登校の有無や衣類の様子、家庭環境など約40項目にわたり、担任や養護教諭が児童一人ひとりの気になる点を数値化して記録します。
AIは、そのスコアや内容を分析し、どのようなサポートが望ましいかを判断してアラートを表示してくれます。
まずは学校内で、YOSSの分析結果に基づき、全児童を対象とした「スクリーニング会議」が実施されます。
この日対象となったのは、2年生の4クラスで、1クラスにつき10~15分ほどかけて話し合いが進められていました。
中には点数が低い児童もいましたが、20点を超えるケースも見受けられました。
YOSSでは、支援の種類として「A=教職員による校内支援」「B=地域資源の活用」「C=専門機関との連携」の3パターンを提示します。
AIからの提案を参考にしながら、スクリーニング会議で支援の方向性が話し合われます。
BやCに該当すると判断された児童については、次の段階として「チーム会議」へと進みます。
この会議では、自治体の担当者やスクールソーシャルワーカーが加わり、福祉的支援の必要性や具体的な対応方法を検討します。
見逃さない支援の芽、小さなサインに気づく力をAIがサポート
些細な兆しから見えてくるものがあります。
ある不登校の児童について、背後にいじめの可能性があるとして、調査が開始されました。
また別の児童は、衣服が汚れていることが多く、給食をよくおかわりし、忘れ物も頻繁に見られました。
チーム会議で話し合われた結果、児童相談所が支援に乗り出すことになりました。
調査を通じて、その児童は約10人の兄弟姉妹がいる多子世帯であり、保護者が過度な負担を抱えている状況であることが明らかになりました。
これまでも、教員は子どもや保護者の発する小さなSOSに敏感に反応してきましたが、複数の職員が情報を突き合わせる機会は限られており、虫歯治療の進捗さえ、担任と養護教諭の間で共有されないこともありました。
糸満市内に勤務する30代の教員は「違和感を覚えて声をかけたとしても、ただの雑談で終わっていたことが多かったです」と話します。
市教育委員会の担当者は「福祉的なアプローチは教員の専門分野ではありません。
YOSSとチーム会議を通して、適切に専門機関へ情報を渡すことが重要です」と語っています。
糸満市がこの仕組みを取り入れる契機となったのは、2019年に千葉県野田市で起きた小学4年生の女児が虐待死した事件です。
この家庭は2017年まで糸満市に在住していました。
この痛ましい出来事を受けて、同市は2020年にYOSSの試行運用を開始し、2021年からは市内の10の小学校(児童数約4,500人)で本格導入しています。
現在では、大阪府大阪狭山市など、全国のさまざまな地域へと取り組みが広がっています。
地域全体での「チーム学校」構想へ。連携が支える子どもたちの未来
YOSSの開発を手がけた大阪公立大学の山野則子教授(児童福祉)は、「従来は教員一人ひとりが問題を抱え込みやすい環境でした」と語ります。
「事件が起きるたびに、学校や教育委員会の責任が追及される状況が繰り返されていますが、それだけでは本質的な解決にはつながりません。教育現場の外にいる専門家たちとも協力し、地域全体で支える『チーム学校』の体制が求められています」と、山野教授は指摘します。