「中学受験」vs「習い事」両立できる?

首都圏や近畿圏などの都市部で中学受験が盛り上がる中で、子どもの習い事と受験勉強の両立が親子にとって悩みの種となっています。小さい頃から続けてきたスポーツや芸術活動を中断せざるを得ない子どもが多い一方で、これらを両立させるケースも見受けられます。専門家は、「子どもの意思が最も大切です」と強調しています。
(※2024年6月18日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

受験とサッカー、親子で悩む選択

6月上旬、東京都港区のグラウンドで、小学校5、6年生の6人がコーチらと一緒にサッカーボールを追いかけていました。これは、小学生向けのサッカークラブ「ポートキッカーズ」の練習です。
都心では中学受験が特に盛んで、その影響もあり、受験が近づくとクラブに通えなくなる子どもたちが多くいます。クラブには幼児も含めて120人が所属していますが、現在、継続的に通っている6年生は2人だけです。この日に参加した6年生は1人のみでした。
クラブに所属する小6の女子児童の母親(49歳)は、「受験との両立は本当に難しいです」と話しています。高2の兄もクラブに所属していましたが、中学受験のため小6の秋の大会に出られず、「受験をやめたい」と涙を流しました。そのとき母親は「やりたいことをやらせてあげてもよかった」と感じたそうです。妹には受験をさせないことに決めたといいます。

受験と習い事の両立に悩む家庭

進学塾「栄光ゼミナール」が今年1月から2月にかけて行った調査によりますと、私立や国立の中学を受験した小学6年生の通塾生の保護者300人のうち、71.7%が受験に向けて習い事をやめたと回答しています。習い事をやめた時期については、「小学5年生」が最も多く26.0%、次いで「小学6年生の夏休み前」が18.0%、「夏休み以降」が17.0%、そして「小学3年生以前」が3.0%という結果でした。一方で、「習い事を続けた」という回答は24.3%でした。
受験勉強と習い事を両立することが難しい理由の一つは、学習時間が非常に長くなる傾向があるためです。神奈川県の中学1年生の女子生徒は、幼少期から続けていた水泳、ピアノ、習字を小学4年生から5年生の秋にかけてやめました。30代の母親は、小学6年生以降は学習量がさらに増えると聞いており、習い事を少しずつ減らしていったといいます。
小学6年生の後半には、平日は塾の授業と宿題に追われ、夜中まで終わらない日が増えました。また、土日も朝から夕方まで塾で過ごすようになり、最終的には目指していた難関私立中学に合格することができました。母親は「習い事を続けてほしいという気持ちもありましたが、その余裕はありませんでした。本当は好きなことを続けながら受験に挑める環境が望ましいのですが……」と語っています。

習い事を続ける子どもたちの受験と挑戦

両立を目指すケースもあります。神奈川県の小学5年生の女子児童は、週3回の塾に通いながら、ピアノと水泳をそれぞれ週1回続けています。これらの習い事は、未就学の頃から始めたものです。40代の父親によると、本人はどちらの習い事も楽しんでおり、勉強の合間の良い息抜きになっているとのことです。現時点では、受験が近づいても習い事をやめるつもりはないようです。父親は「体力や感性を育むことも、学力と同じくらい大切だと思います。むしろ、子ども時代にはそちらの方が重要ではないでしょうか」と語っています。
一方、関東地方に住む40代女性の中学1年生の長男は、小学5年生の頃に始めた馬術を続けながら、受験に挑みました。本人が習い事と勉強の両立を希望したそうです。現在は、中高一貫の私立進学校に通っています。
馬術の練習は主に土日に行い、朝から夕方まで馬に乗っていました。大会がある日は、早朝から夜までほとんど勉強する時間が取れませんでしたが、その分、平日は夜遅くまで塾の授業や宿題に取り組んでいました。練習を休んだのは、受験直前から本番までの約1カ月半ほどだけでしたが、志望校の一つに合格した時点で再開しました。
この女性は、「子どもがやりたいことを優先するのが大切だと思います。親の役割は、そのためにどうすればよいかを調べ、情報を提供することだと感じました」と振り返っています。

中学受験と習い事の選択、親子で話し合う大切さ

「本人の意思が最も重要です」 中学受験と習い事の両立をどう考えるべきかについて、元小学校教員で教育評論家の親野智可等さんは、「習い事の回数を減らすことや、受験直前の数カ月間だけ中断すること、または長時間の学習が必要ない学校を志望校に選ぶこと、さらには受験自体をやめることなど、さまざまな選択肢があります」と指摘しています。そして、「最も大切なのは、本人の意思です。親子でしっかりと対話をしてほしい」と述べています。
対話の際に重要なのは、保護者が上から目線や威圧的な態度を取らず、子どもを対等な人間として尊重し、共感しながら話を聞くことだといいます。「お互いに本音を話し合いながら、さまざまな選択肢を示し、そのメリットやデメリットを一緒に考えていくことが大切です」と親野さんは語っています。